Just Sean and Bob are talking (or driving.)
ボブの運転は苦手だった。
下手だからじゃなくて堅実だからで、回りをよく見ていてあんまり揺れないせい。安全だとわかりきった岸の上みたいなせい。
つまり、つまらないせい。
相変わらずの助手席に収まって、ミッションのギアを手早く替える腕の動き、ぴったりに移し変える足の速さ、そんなのを見ながら凭れるシート。
いつだったか本人にそう言ったことがあった。遠い昔、セダンとホンダでツアーをしていた頃。
バックミラー越しのホンダはアランの運転に代わってて、ふざけて実に楽しそうだったのを覚えている。
だから、いいなぁなんて呟いたら、じゃあダリルこっちに連れてこいよ、とか言ってきた。俺を見もしないで。
カセットはなにか適当な選曲で、妙に似合わない道行き。多分つまらないことで喧嘩でもした後だったんだろう。
そしてあのとき、この人はきっと長いこと隣に居るんだろうと、妙にうんざりしたのを未だに覚えている。
方向指示器が指す左、流れに割り込む準備の手前。
間違いなく向かっているのは自分の家で、ショーンは思わず運転手を凝視した。
けれど訝る目をほんの少しこちらにくれただけで、車は実にスムーズに左折、そのまま直進。
「嘘つき」
ばかばかしいことに文句が出た。
しかも驚いたことに怒っている自分がいる。
「……謂れのない非難だぞそれは」
すっかり忘れられたらしい、お茶をご馳走してくれるとかいう約束。
ささいなそういうことさえ反古にはしない善良な人だと知っているから、実際ただ単に忘れているだけだろう。けれど。
息をはく。
腹がたつほど自分勝手だと、ショーンは自分に認める。
なにしろ自分が彼にないがしろにされるなんて、まったくあり得ないことだと勝手に信じこんでいる。
バカみたいに信じている。
「嘘つきは絞首刑だよ」
その少なからぬショックを隠すすために、昔のアメリカの船乗りみたいにね、煽るふうに歌い出したら、被った低い声。
音程の溝を埋めるみたいに追う旋律は、引き離せないほどちょうどいい。
知らない間に覚えた感覚、
積もるみたいに重ねた時間。
「ボブ」
閉じ込めておいた声がこぼれて、剥がれた喉がひりひりする。
眩しくて目を閉じたら、うっかりまぶたの裏が痛くなった。
この旅を始めたばかりの頃。楽しくてしょうがなくて家に帰りたくなかった。
人生はため息が出るほど長くてどこに行き着くかわからなくてどこにいたのかもわからなくさせて、ただ帰る場所だけ知っていた。随分遠くなったけれど愛しい、懐かしい場所。
そういうものをいくらでも共有してきたはずで、なにしろ音楽だけで繋がってきた、だから、もう2度とほどけない糸で結んだまま、連なる丘をこれからも越える。
先導は俺だったりボブだったりするだろう、ついていくこともついてきてもらうこともあるだろう、でも変わりなく一緒に歩くだろう。大地を蹴って走るだろう。
だから、まっすぐ歩けなんて言わないけど俺から見えないとこには行かないで。
まさかそんなこと言えるわけなくて悔しいから、眠い、宣言して向く窓の方。
流れる景色のまん中はきっと破滅に繋がっていて、知っているのに選んでしまう。
そういうの全部バレてるんだと思うのが悔しくて、絞首刑だよ、意味もないのに囁いた。
手馴れたハンドルさばきは滑らかで、じゃあお前執行人買収してくれよ、愉快そうな声。
言われなくても有り金全部叩くし必要とあれば体も開く自分が想像できて、ショーンは実にうんざりした。