視線(drabble)

May 23, 2011 02:46

Title:視線
Author: むいむい
Pairing:Viggo / Sean
Rating:G
Disclaimer:It's not true.
*Fiction in Japanese



「ショーン、何みてるんだ?」
 出し抜けにきかれて、おれはポカンとききかえした。
「何、って何?」
 ヴィゴはちらりと苛立ちをのぞかせて言った。
「あの、道の向こうでギター弾いてるやつ……」
 テラス席から、ヴェニス・ビーチの海岸に沿った遊歩道で演奏する若い男の姿がちょうど見える。
 おれはうなずき、
「彼はちょっと……」
 お前に似ている、と、言いかけて飲み込んだ。
「ちょっと、何だよ」
 ヴィゴはまだ、ちょっと不機嫌だ。
「いや、何でも」
 おれははぐらかす。
 日頃、自由と独立を重んじている彼が、ちいさくとも嫉妬をみせるのは、なんだか気分がよかった。
 ストリートのギター弾きは、髪の色とちょっとハスキーな特徴ある声、それから全体の背格好が、ほんの少しだけヴィゴに似ていた。もちろん、そんなことを言ったら、「全然、似てない」と、彼は全力で否定するのだろうけど。
「何でも、って、何?」
 ヴィゴはめずらしく、ヘソを曲げている。
「何でも、って……ほんのちょっとのことだよ」
 鷹揚な気分になっていたおれは、つい、口を滑らせた。
「ほんの少しだけ、ヴィゴに似てるな、って、見てただけだよ」
 携帯にかかってきたややこしそうな電話のせいで、やつが席を外した間、ちょっと脇見をしただけだ。
「--」
「なんだよ」
 今度はおれがきく番だ。
 ヴィゴはたっぷり、ためをとって言った。
「--あんた、男も見るのか」
 そう指摘されて、おれは、あっと言いそうになった。
「--」
「なんてこった。女を見てるときだけ気をつけてりゃ何とかなるかと思ってたけど、男を見てるときも油断できないってことか」
「アホ、そんなことあるか。お前に似てなきゃ、見るもんか!」
 からかわれて、つい、おれは失言を重ねてしまった。
 ヴィゴは「シーッ」と唇に指をあて、「そんなに大声で『愛してる』って言わなくても、わかってるよ」と、にんまりした。
「『愛してる』なんて言ってない!」
 思わずおれは立ち上がり、慌てて座った。
「チッチッチッ」
 ヴィゴは軽く舌を鳴らし、素早くキスした。
 そして、チェシャ猫の笑いを浮かべたまま満足げにつぶやいた。
「そうか……あいつ、おれに似てたのか……似てないけど……」
 おれはむっとして答える。
「似てないよ……似てたけど」
「だよな、男はおれだけだもんな……」
 ますますにやつくヴィゴに仕返しするために、この場でキスしてやるくらいのことしか思いつかないおれだった。



*たぶん、このあと、ヴィゴのスネを蹴っ飛ばしたものと思われます。
ていうか、こいつらいちゃつき過ぎ!

RPS:ほぼ藻豆, Drabbles:超短編fic

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