Title:真夜中の散歩
Author: むいむい
Pairing:Viggo / Sean
Rating:G
Disclaimer:It's not true.
*Fiction in Japanese
マドリード。深夜。
仕事の関係者が開いてくれた誕生パーティからの帰り道、何ブロックか手前でタクシーを降りたヴィゴは静かな住宅街を歩いていた。アルコールの熱が冷えていくのが、気持ちよかった。
大勢で騒ぐのも楽しいけれど、やはり最後には一人がいい。
歩くうちに様々な思いが頭をめぐる。こうして歩きながら自分ひとりだけの考えにふけるのも、ヴィゴは好きだった。
月のない晩で、いつもより星がよくみえた。
ごきげんで歩いていたヴィゴだが、アパートが見えて来た辺りで、ハッと足を止める。
建物の前に、人影があった。
警戒しながら、ゆっくりと近づいていく。なぜか片手でポケットの中の携帯電話を握りしめていた。
「やあ」
人影が声をかけてきた。
「元気そうじゃないか」
よく響く低い声。
ヴィゴの肩から力が抜けた。
「ショーン……」
めずらしく黒いスーツに身を包んだショーンが、ひらひらと手を振っている。
「夢なのか?」
思わずヴィゴが言うと、
「夢かもな……まあ、ロンドンからここまで、三時間飛行機を我慢すればいいだけだ」
と、言って、シャンパンをあげてみせた。
「誕生日、おめでとう」
針金をくるくる取ると、コルクをあけた。
「こんなところで開けちまうのか?」
部屋まで待たないせっかちさに、ヴィゴは思わず声をあげた。
ショーンはにやりと笑い、上着のポケットから、シャンパン・フルートを取りだした。
ヴィゴは思わず、ヒューッと口笛を吹いた。
ショーンがこんなキザな真似をするなんて、あり得ないと思った。
「さあ」と、グラスを手渡して、ショーンがシャンパンを勢いよく注ぐ。
薄暗い街灯のオレンジの灯に照らされて、白い泡が光り、煌めく液体が細いグラスの口から溢れた。
「おっと」と、ヴィゴは笑う。
「ショーン、シャンパンは好き?」
反対側のポケットからもう一つのグラスを取りだして注ぎながら、ショーンは答える。
「……嫌いな人間がいるか?」
「質問に質問で返すな」
「北の男」としてはビール一本槍であるべきなのだろうが、実はショーンはシャンパンが大好きだ。だが、そのことはおおっぴらには言いたくないらしい。
いつもショーンはヴィゴの問いにまともに答えない。一番大切な問いかけにも。
照れが「愛している」というシンプルな言葉を口ごもらせる。
ショーンは、そんなヴィゴの不満に気づいていたが、それでも、なかなか素直になれない。
「好きだよ……おっと、もうしゃべるな」
ヴィゴの言葉を素早くキスで封じて、
「ハッピーバースディ、ヴィゴ」
と、グラスを揚げた。
二つのグラスが微かに触れあう。
「--ちぇ、かっこつけやがって」
ヴィゴは、すまし顔でシャンパンを飲むショーンからグラスを奪うと、思い切り抱きしめて唇を奪った。そしてグラスを持ったまま、ショーンの首筋に顔を埋め、広い背中や丸い尻をなで回した。
「こらっ、こっちは恥ずかしいの我慢してキザやってるんだぞ!」
シャンパンびたしになりながらのキスとペッティングに、ショーンは抗議の声をあげたが、ヴィゴはきいていなかった。
これから朝までかけて、ありったけの愛の告白を彼にさせるのだ。
上ってきたばかりの下弦の月が、鈍くあたりを照らしている。
了