Title:クリスマスのあとに
Author: むいむい
Pairing:Viggo / Sean
Rating:G
Disclaimer:They are not mine.
*Fiction in Japanese
出がけに携帯が鳴り、誰からか確かめもせずぶっきらぼうに「ハロー」と言うと、『すまん。用もないのに、つい……』と、よく響くやさしい声が謝った。
おれはハッとして声のトーンを和らげる。
「こっちこそ、ごめん。いつでも電話してくれよ。自分にかけるつもりで」
『自分には、かけないよ……』
ショーンの声は笑いを含んでいて、おれはちょっと安心する。
「おれは自分に電話するよ。クレームの電話とか、お祝いの電話とか」
『ヴィゴ……』
ついにショーンはくつくつと笑い始める。
彼の笑い声は、おれを幸せにする。
だから、おれはしょうもないことを話し続ける。
「自分に腹を立てても、自分じゃなくなることはできないから、しょうがないんだ。だから、いつでも電話しろよ」
『わかった。じゃあ、ヴィゴもおれに電話してくれ』
それほど面白くないジョークにも、ショーンは笑いを惜しまない。
「それで……何だっけ?」
おれがきくと、ショーンは『いや、用はないんだ』と、否定する。
「そうか」
だが、おれは彼の用件を知っていた。
『おい、ヴィゴ、ちょっと待ってくれ……』
ショーンが慌てた声を出す。
「なに?」
『あの……その……今回は、どうする?』
はっきり言おうとしないショーンに、おれはちょっとだけ意地悪する。
「どう、って、何を?」
『えっと……その……あの……』
ショーンはなかなか自分から事を進めようとしない。リードしてくれるのを待つくせがある。彼のことは好きだが、これにはいつも苛立ってしまう。もちろん、これこそがショーンだということでもあるんだが。
『意地悪だ、ヴィゴ』
--拗ねる五十男がかわいいと思うなんて、おれも末期だ。
だが、それを口にしたら、もっと拗ねるだろう。
「今、話せないんだったら、切るぞ。じゃ、また、あとで」
『待て、って。ニューイヤーのことだって、知ってるくせに……今年は、いや、来年は一日に会えるのか、それとも別の日なのか、だめなのか、ききたかったんだよ』
堰を切ったようにショーンがまくしたてる。
彼の必死さを引き出したことは、おれを満足させたが、ちくりと胸を刺しもした。意地を張ったことを少しだけ、おれは後悔した。
「ごめん、ショーン」
--結局、いつもおれが先に謝ってしまう。
『……おれも』
ようやく会話が成立した。
「一月二日、あんたはどこにいる?」
『おまえのところに移動しなければ、ロンドン』
「じゃあ、電車に乗って大陸に渡ってくれよ」
クリスマスのあと、年明けに会うのが、この十年来のおれたちの習慣だった。
もっと恋人らしい感じだった頃はスケジュールをやりくりして小旅行したりもしたものだが、大抵はお互いの動線の交点のどこかで慌ただしく抱き合うことが多かった。空港のバーでビールを一杯飲んだだけで別れたこともある。いつもの行き来と似たりよったりといえば、その通りだが、新年に会うという習慣をおれは気に入っていた。
『パリ、ってことか?』
ショーンは「やっぱりな」という声を出す。都会で、人々も有名人慣れしているパリは動き回りやすい。だが、何だかマンネリぽくて癪だった。
「いや、もっと面白いところを考える」
おれの答えに、ショーンは笑った。
『そんなに面白くなくてもいいよ、ヴィゴ』
「だって、せっかく自分のための時間なんだから、面白くしたいんだよ」
『おまえのためだったのか』
呆れたように言って、ショーンはまた笑う。
クリスマスは家族のために、ニューイヤー・イブは友達のために、そしてウィークデーは仕事のために……おれたちの時間はひとのために使われていく。
だが、新年のひとときは自分のための時間にしたい。
その「自分」には、彼も含まれていることに今になって気がついた。
おれたちは、恋人同士というには、あまりにもお互い我が侭すぎる。でも、単なる懐かしい友人でもない。
「ああ、おれのためだよ。ショーンと会わないのは何か欠けてることだから」
そう言ったあとで、「まあ、なんの生産性もないけどな」と付け足すと、彼は『こら』と怒ったフリをした。
『……おれも、おまえがいない新年は物足りない』
たぶん、ショーンはこれを言ったあと、顔を真っ赤にしているのだろう。咳きこみながら付け足した。
『こういうのを「腐れ縁」って言うんだ、ヴィゴ』
「もう、きるぞ」
おれにも照れが伝染したみたいだ。
こうしてまた、新しい一年を迎え、おれたちはお互いに近くなっていくのだろう。
了
*タイトルはクリスマス更新ができなかったことへの言い訳ではありません(笑)