Title:"brother" + "romance"(RPS)
Author: むいむい
Pairing:HL/RSL
Rating:PG-13
Disclaimer: They are not mine.
*Fiction in Japanese
*アメリカ版「TVガ○ド」(10月13日号)のインタビューを読んで書いたお話です。RPSついに解禁? いや、今回はイレギュラーってことで。
ドラマ本編のネタバレはありませんが、記事についてはなんとなくわかるかも。
Title:"brother" + "romance"(RPS)
Author: むいむい
Pairing:HL/RSL
Rating:PG-13
Disclaimer: They are not mine.
*Fiction in Japanese
*アメリカ版「TVガ○ド」(10月13日号)のインタビューを読んで書いたお話です。ドラマ本編のネタバレはありませんが、記事についてはなんとなくわかるかも。
ホテルの会議室から、ロビーに向かうエレベーターの中でロバートはめずらしくむっつりとしていた。
さっきまで受けていたインタビューの最中は終始にこにこして軽口を叩くほどだったのに、小さな箱にヒューと二人きりになったとたん笑顔が消えた。
日頃は仕事上でどんなにわずらわしいことがあってもひょうひょうとして受け流している彼が、今日に限って苛立っている。
今回のインタビューのせいなのは明らかだった。
テーマはずばり「ハウスとウィルソンのbromanticな関係について」。
劇中のハウスとウィルソンの複雑な関係については、既に一部のマスコミや視聴者(特に女性)が同性愛のにおいを嗅ぎつけて食い付いてきている。制作陣もキャストもそれは承知の上だったが、あの雑誌のような一般向けの媒体が正面切って特集を組むというのには正直驚いた。
「ハウスとウィルソン、二人揃って」というオファーに、ヒューとロバートは応える羽目になったわけだが、もともと、この話題に限らず、自分の仕事についてあれこれ語るのを好まないロバートは、提示されたテーマにますます気乗り薄なようすだった。ヒューもいい加減、ドラマのストーリーをゴシップ扱いされることにうんざりしていたが、これ以上ないほど一般的な視聴者にむけて持論を述べるいい機会だと思うことにして、言いたいことは概ね言ったので、むしろすっきりした気持ちでいたのだった。
だが、ロバートはそうではなかったらしい。
なんとなくそのまま別れがたくなって、ヒューは声をかけた。
「ねえ、ロバート、ちょっとどこかで話そうか」
常とは違うロバートの態度を心配すると同時に、クールな友人が思いがけなく感情の綻びを見せたことに、ヒューは隠微な喜びを感じていた。
ロバートは機嫌のよいふりはしなかった。
「話す? いや、ぼくは話したくない。飲みたい気分だ」
「飲んでプールに飛び込む? ハリウッド式に」
そうからかうと、ロバートは片方の眉をあげてじろっとヒューを見つめ、それから一呼吸おいて苦笑いした。
「ぼくのとこ? それともきみのとこにする?」
ロバートが言うのはロスでの撮影中、二人が滞在しているホテルのことだ。
「ぼくのところがいいんじゃないかな」
ヒューは答えた。彼の滞在先の方がバーが静かで、プライバシーが保たれるような設計になっていた。
「アロマキャンドルは用意してないけど」
ロバートが笑い出した。
「必須アイテムだから、用意しておかなきゃだめじゃないか」
クリスタルのグラスの中で、透明で大きな氷がくるりと回転した。
バーテンおすすめのシングルモルトを口にしても、今日はなかなか酔いが回らない感じがする。
ヒューも若い頃は親の敵のように飲んでみたりしたものだが、今は適量をごく親しい人間と楽しむだけだ。二人ともパーティは苦手だったし、二人で飲んだりすることもあまりない。
ヒューは隣に座る男の横顔を、そっと伺った。
「『ブッチとサンダンス』なんだろ……」
そう吐き捨てるように言ってロバートは肩をすくめた。
「まだ完結してない番組で何を言ってもしょうがないのに……『ハウスとウィルソンはスポンジ・ボブとパトリックみたいだ』って言われても、今のところヘラヘラ笑ってるしかないんだ」
ヒューは務めて穏やかに答えた。
「何をそんなに苛ついてるんだ? ……というか、ハウスとウィルソンのホモセクシャルな結びつきについてきかれるのにもいいかげんうんざりしてるのはわかる。でも、きみとぼくの間では--」
「ヒュー、ぼくはきみのそういう偽善的な態度が我慢ならないんだ」
ロバートはヒューの言葉を遮った。ブラウンの目は怒りを含んで強い光を放ち、口角がぎゅっと引き結ばれている。こんな表情も普段は見せない。
「……ロバート」
いつもなら、仕事に関するあれやこれやについて、悩んだり腹を立てたりしているのはヒューの方だった。
ハウスという興味深く魅力的なキャラクターに取り憑かれているヒューは、脚本の矛盾や時にぶれる演出の方針を越えて「ハウスがハウスであるために」どうすればいいかに日夜頭を悩ませていた。遅くまでシナリオを読み込み、イギリスの友人に電話で相談し、さらに脚本家とディスカッションをし、それでも解決しきれない日々のあれこれについてロバートに話していた。ロバートはいつも、ヒューののめりこみぶりを冷静に批評したが、それは暖かい思いやりに裏打ちされたいわば「親身の反論」だった。
あえてヒューの考え方に距離を置くそのやり方は、かえって彼を楽にしてくれた。
ときどき、ヒューはこっそりと考えた。「まるで自分たちはハウスとウィルソンみたいに、二人で一対だ」と。だが、すぐにロバートの方がいいな、と思い直した。ロバートにはウィルソンのような屈折はない。あくまでも率直で信頼できる。まあ、理知的な男だから単純明快というわけにはいかないが、本心をごまかさないところが好ましい……と。
そんなお定まりの状況とははうってかわって、今日のロバートは感情を顕わにしていた。
「あれはあくまでも『アリバイ作り』なんだ。シナリオはまだ1シーズン分は出来上がってない。もちろん撮影だって終わってない。下手なことをいって番組をつぶすわけにはいかない、って、ショアをはじめプロデューサー連中は思ってる。そこで、ヒュー、きみの出番だ。『火消しだヒュー。全否定はしないでくれ、でも、同性愛は無しだ』……ああ、きみは便利に使われすぎてる」
ロバートはため息をついて、うなだれた。
それから不意に顔をあげた。
「ぼくは怒ってるんだ。きみに、でなく、周りの色んなものに。実在しない人物同士の関係が何だ? そんなの思惑でどうにでもなるものなのに。脚本なんて制作会社とプロデューサーの鶴の一声ですぐ変わる。ぼくは役者であって広報官じゃない。きみもだ」
彼ははヒューの肩に手をかけ、強く揺すぶった。
「きみは本当にすごい俳優なのに……ほかのことまで背負いこまされちゃだめだ」
いつにない距離の近さ、ことにバーという公共空間での距離の近さはヒューにそこはかとない居心地の悪さを感じさせる。
ロバートは黙り込み、グラスに口をつけた。
居心地の悪さがこの場を立ち去りたいほどの酷さになる前に、ロバートが苦しげにつぶやいた。
「ヒュー」
「なんだ」
「すまない。眠いんだ。一刻もがまんできないくらい眠い」
しゃべっているときは明瞭だったくせに、ロバートは口を閉じた途端に目も閉じ、がくりと首が落ちた。
「わかった。きみのベッドまでたどりつけそうにないんだな」
勘定書にサインをして、彼をスツールから立ち上がらせた。
ロバートはなんとか体面を保てるギリギリ程度にまっすぐ立って歩き、ヒューの部屋までやってきた。その間じゅうさりげなく、肘のところで彼を支えているのは大変だった。ドアを閉めたとたんにロバートはまっすぐソファにダイブし、ヒューはやれやれと汗を拭いた。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、グラスに注ぎながらヒューは困惑して言った。
「正直、きみがあんなにあの話をいやがってるとは思わなくて……。ロバート、ハウスとウィルソンが愛し合っているという状況になったらいやだと思ってるのか」
「演じるのは全然オッケーに決まってるじゃないか。悪いけど、ぼくの方がきみよりも同性愛者の役はやってるよ」
ロバートはまぶたを閉じたままで答えた。長い睫毛がぴったりと伏せられている様子は、彼をいつになく痛々しく見せた。
ヒューはため息をついた。
「きみは優れたプロだから、要求には完璧に応えることはわかってる。同性愛に偏見がないことも知ってる。そうじゃなくて、ハウスとウィルソンが、その……デキてしまうのが……まあ、あからさまではないにせよ、そういう展開になるのは、彼らの人物造形にとって『アウト』だと思ってるなら、ほかならぬきみがそう言うんだから、ぼくはきいて置きたいんだ」
「もう、その話は何度もしただろう?」
ロバートは目をあけた。まっすぐな視線は酩酊ではなく理性を感じさせた。
水を差し出すと、起きあがって喉を鳴らして飲んだ。
額に落ちた髪をかき上げ、ロバートは息をついた。
「ぼくが思うに、実際のところ、ホモセクシャルであることだけが問題なんじゃない。『ストレートの男が男を愛するようになる』というのがマズイんだ。もとからハウスがゲイなら、連中は困らない。『自分とは違う』という線引きをして『理解』できるから。そうじゃなくて、ストレートとして振る舞ってきて、女が好きな男が、それでも男を愛するようになる可能性があるのが、恐怖のもとなんだ。ストーリーが説得力があればあるほど、自分の秘密を暴かれるような気分になる人間がいるわけだ。……まあ、そんな似非心理学的な分析なんてどうでもいいことだけど」
いつになくロバートは饒舌だった。
「ヒュー、ぼくたちは……いや、ハウスとウィルソンは『ブッチとサンダンス』なんだぞ。それって、すごいことだと思うんだけど、きみは『すごいことだ』って言うことで、逆にそうでもないような印象を与えていたんだ」
ようやくロバートの苛立ちの原因がわかってきた。
「ロバート、ぼくが『ハウスとウィルソン』について、ホモセクシャルじゃない、と言ったのは、ショアに何か頼まれたからじゃない。ぼくたちが結論づけたように、二人は結びつきは恋愛以上のものがある、って思ってる。恋愛感情に近いものも抱いてるから、そういうシーンもありうるかもしれないけれど、それだけじゃない」
「それだけじゃない、って?」
ロバートが疑い深そうにききかえしたのに、ヒューは答えた。
「彼らはお互いに恋してるだけじゃなくて、親友で兄弟で、憧れの対象で、依存の対象で、面倒を見る対象で、憎しみの対象でもある……お互いがすべてなんだ」
ふっと笑みがロバートの口許に浮かんだ。
この日いちばんの笑顔だ、と、ヒューは思った。
「わかってるじゃないか」
ロバートは、うれしそうにうなずいた。その目をのぞき込むようにして、ヒューは話した。
「わかってるよ……ぼくたちは、いや、ハウスとウィルソンは決してぶれない。まあ、脚本がどうなるかはわからないけれど。ぼくはきみと話し合って、造り上げてきたものを裏切ったりしない」
「ヒュー」
今やロバートは、尊敬する大人を見る少年のような目でヒューを見つめていた。
「--『心配するなよ』って言う役に回るのは気分がいいな」
いつもの「ナニー役」を離れたロバートと話ができたことが、ヒューを勇気づけた。
「それからきみが、『単なる役で架空の存在だ』って言いながらも真剣に役を演じてきたこともわかってうれしいよ。やっぱり、『ウィルソン』としては『ハウス』との関係の変化には緊張するだろう?」
「緊張?」
ロバートが呆れたように復唱した。
「いつか、キスする羽目になるかもしれない、って」
「ハァ?」というようにロバートの眉が寄せられた。ヒューは「しまった」と内心思った。イギリスではいまひとつ順応できなかった「独特の率直さ」は、アメリカでもふさわしくはないらしい。
しかし、ロバートは優しく微笑んで言った。
「ウィルソンは緊張しないさ。いつでも覚悟はできてるけど、そのことを死ぬまで隠しておくつもりだから」
彼らはいつのまにか膝と膝が触れあうほど近寄って、話していた。
ごく自然にロバートの顔が近づいてきて、彼らの唇はぴったりと重なった。
ヒューは驚くよりも、そのあまりのさりげなさに、うっかりと目をつぶってしまった。
やさしく唇がついばまれ、そっと舌の先がくすぐるので口許を緩めると、するりと舌が滑り込んできた。友人だとか、そもそも男同士だとか、もろもろのことはいっさい頭に浮かばず(浮かんだけれど、気にならず)、やわらかでエロティックな舌に自分の舌を絡めると、一気に全身に熱がかけめぐった。激しくはないけれど、確実に体に火をつける、そんなキスだった。
唇が離れていくのが惜しくて、ヒューはロバートの手を両手で握りしめた。
二人はまたキスをした。
それから、もう一度。
単なるキスなのに、頭がくらくらとした。ロバートも同様らしく呼吸が荒くなっていた。
何度目かのキスのあとロバートが言った。
「いつか、ウィルソンがハウスにキスをするなら、こんな風にすると思うんだ」
その声でヒューはようやく我に返った。
「……ロバート、きみはキスがうまい」
彼は肩をすくめた。ヒューはにっこり笑って言った。
「今後の参考にするよ。ありがとう」
「どういたしまして」
ロバートはすまして答えた。
それから改まった口調でこう言った。
「ねえ、ヒュー、どんな状況になってもぼくは投げ出したりしないよ」
その真摯さに、ヒューはうたれた。
「きみを信じてるよ、ロバート。それからきみが最高の役者だってことも」
面と向かっての気恥ずかしいほどの褒め言葉に、ロバートは顔をしかめた。
「ヒュー。残りのシーズンは、きみとのラブシーンを楽しみにしてるよ。キスのレクチャーもしてあげたことだしね」
いつもの調子が戻ってきたことに、ヒューはほっとする。
「『演技は現実じゃない』ってきみは言ってたけど、役に入れ込みすぎてぼくに惚れるなよ」
「何を言ってるんだ。『ヒューはハウス自身だ』って、言っただろう? きみがぼくに、いや、ウィルソンに惚れるんだよ」
ロバートはそう言って、いたずらっぽく笑った。
了