無風地帯(fic)

Dec 01, 2008 02:27

Title:無風地帯
Author: むいむい
Pairing:House/Wilson
Rating:R
Disclaimer: All characters belong to Heel and Toe Films, Shore Z Productions and Bad Hat Harry Productions in association with Universal Media Studios.No infringement is intended.
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*Fiction in Japanese



ウィルソンが三度目の結婚をすることをハウスに打ち明けたのは、ある夜、ベッドの上でさんざん汗をかいた後のことだった。
 各々が満足し、このまま眠ってしまおうか、それとも何か飲むためにベッドから抜け出そうかとぼんやり思う……そんな弛緩したタイミングだった。
「今度の五月に、結婚することになったんだ」
 シーツの間に行儀良くおさまって、ウィルソンがそう言った。
 それはあまりに唐突だったのでハウスは、つぶりかけていた目を見開いた。
「何だって? 誰が何をするって?」
 ハウスにたずねられて、ウィルソンは何故か頬を赤らめた。彼はハウスの方に向きを変え、まっすぐ目を見て言った。
「結婚するんだ。ジュリーと」
「はあ」
 その名前を聞いたことはあった。だが、そこまで話が進んでいるとは思っていなかった。
 彼らはお互いの恋愛関係についてかなりの部分を知っていた。
 ハウスとウィルソンはときどきこうして一緒に寝ていたが、恋人どうしというわけではなかった。基本的には彼らはヘテロだったのだが、いつか、何かのきっかけでセックスするようになった。そのことについて、彼らはあまり重く考えていなかった。正確には、重く考えないようにしていた。
 彼らは、このことをまるで二人の間で新しくブームになったビデオ・ゲームやパズルの一種であるかのように扱っていた。確かに、「二人でする楽しいこと」と言うのは間違ってはいない。
 そう。彼らはあくまでも「親友」だった。

「色々と……きみには面倒をかけたね」
 ウィルソンが何を指してそう言うのか判然としなかったが、ハウスはあいまいにうなずいた。
 「親友」どうしである彼らは、お互いが恋愛相談のカウンセラーでありクライアントになって、うまくいきそうな、あるいはいかなさそうな恋愛について何かと話をしていた。親友同士なのだから秘密はない。
 ときにそれは面倒ではあったが、別にどうということではなかった。
「ぼくは惚れっぽいから、似たような話を何度もしてた気がするし」
 隣に寝ているウィルソンの顔がすぐ近くにある。
「そんなこと……」
 ハウスはいつものように年上らしい、達観した態度をとろうと務めたがうまくいかなかった。この期に及んで、ウィルソンが抱きしめたいくらい愛しく思える。
「まだ家に転がり込まれたことはないから大丈夫だ」
 どぎまぎした気持ちを押し隠して、ハウスが言うと、
「結婚したらもう泊めてくれないのか?」
 と、ウィルソンは子犬のような目で見つめてくる。
「そうじゃなくて、一緒に住む、っていう意味でだ」
 ハウスは口の内側を噛んで、気持ちを落ち着けなくてはならなかった。
 抱きしめたい、という欲望は、手を伸ばせば届く距離に全裸の彼が寝ている状況では即叶えられてしまう。
 「これはどういう種類の拷問なんだ?」とハウスは密かに呻いた。
 ウィルソンは(隣に全裸で寝ているくせに。さっきまであんなことをしていたくせに)、ハウスの葛藤とはまったくずれたところで会話を進めていく。
「『一緒に住むのが迷惑』って……ぼくは、きみよりは家事の能力があるから、実際には面倒はかけないと思うけど」
「ああ、それはそれで困るな--お前と結婚したくなるから」
 それは会話をきりあげるための軽口だったはずだが、この状況で、至近距離で口にされると微妙な効果をもたらした。
 いかにも鈍感な男であるかのような話をしていたウィルソンが、困った顔でハウスを見つめている。
 どうやら彼らがずっと避けてきた地雷を踏んでしまったようだ。

息詰まる沈黙を破ったのはハウスだった。
「まあ……新しい妻に蹴り出されたときには、泊めてやるから心配するな」
 ウィルソンが情けない笑いを浮かべた。
「明日は早いから、もう、寝ろ」
 一方的にそう言って、ハウスはベッドサイドの灯りを消した。

暗闇のなかでハウスは目をあけていた。
 隣のウィルソンも多分眠ってはいないだろう。
 彼らの「友情」は、人工的につくられた無風地帯のようなものだった。彼らを取り囲む状況が変わり、あるいは彼ら自身が互いにいがみあったりすることがあっても、その「中」はいつも穏やかで安全な場所だった。
 その「何もない場所」を守ることは、いつの間にか彼らの不文律になっていた。一緒に寝るようになったことすら、その「何もなさ」を変えることはなかった。
 それがハウスなりの「友情を大切にする」やり方だった。
 だが--。
 ハウスにとって当然のことが、ウィルソンにとっても当然だったとは限らないことに今さら思い当たった。
 そもそも、彼が何を考えているのかわからないということに、ハウスは愕然とした。
 すぐ隣にいて、長い間みているはずなのに、その実何も知らない相手……それがウィルソンだった。
 ハウスは唸りながら寝返りを打ちかけ、隣に寝ているウィルソンのことを思い出して、そろそろと向きを変えた。
 友人は静かに横になっている。
 ハウスはそのようすを背中越しに伺い、そっと息をついた。
 思い返せば、彼らがこういう風になったのは、ハウスの方が「押し倒した」結果だった。それははっきりと自覚があった。
 だが、これまでの話を聞いたところを総合すると、ウィルソンという男は往々にして押し倒されてどうにかなっていることが多い気がする。そもそも女が男を押し倒すったって、男の方でOKでなければどうにもならないはずで、男同士だって腕力からすれば一方的にということはありえなくて……。
 --ウィルソンは予期していた?

ここまで思考を展開させて、思わずハウスは起きあがりそうになった。
 無意識かもしれないが、ウィルソンは相手の方から仕掛けるようにしむけている。相手が自分に好意を持っていること、その欲望を読み取ることは造作ないことだろう。彼はただ、確認するだけでいい……。

では、ウィルソンはおれを愛しているということなのか? 
 二ヶ月後にはまた結婚しようとしているのに?
 どういうことなんだ?

そしてハウスは思い出した。
 ウィルソンが二回目の結婚について言い出したのは、彼らが寝るようになってまもなくのことだった。
 だが、結局、彼らはセックスも含めて関係を変えることなく今に至っている。
 近づきたいのか、離れたいのか……彼の思考がまったく読めない。
 ハウス自身もそのことについては自分でよくわからない。
 近づきたくもあり、離れたくもあり、そのどちらもいやだった。彼らの行動は矛盾だらけだった。

どうやら、ただひとつだけ、二人の意思が一致しているところがあるらしい。
 「何もない場所」を守ること。
 荒れ狂う世界の中のたった一つの無風地帯。それが彼らの友情、彼らの絆だった。

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