Title:夢
Author: むいむい
Pairing:HOUSE / WILSON
Rating:R
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*Fiction in Japanese
**夏コミのちらしのために書いた小咄の再掲です。
立ち上る湿った音が、やけに大きく響く。
ハウスは重い息を吐いた。
前を開けたジーンズの間で動いている茶色の頭頂部がよく見える。
熱い粘膜がハウスのものを包み込み、絶妙の加減で締め付けながら刺激する。強く吸われて、危うくそのまま果てそうになる。
「ちょっと……待て……そんな……」
ハウスは思わず待ったをかけようとするが、ウィルソンは聞いていない様子で、熱心にブロウジョブを続ける。
だが、ここはハウスのオフィスだ。と、突然気がつく。
まずいことに廊下側のブラインドが全開だ。彼らのやっていることは一応机の陰になっているが……だが……だが……こんな……。
この上ないほどヤバイことに気付きながらも、ハウスはやめたくなかった。
何てクソッタレな葛藤状況なんだ。しかも、やかましい。すごく、やかましい。
「……うるさいぞ!」
自分の声で目が醒めた。
だが、音は相変わらずきこえていた。耳障りなモーター音。それがウィルソンのドライヤーの音だと気付くまでに少しだけ時間がかかった。
朝だ。
先週から妻に追い出されたウィルソンがハウスのフラットに転がり込んできているのだった。
そして、やつは朝っぱらから髪をセットするために小一時間バスルームに陣取ってドライヤーをかけるのだった。セットした結果と起き抜けの違いなんてほとんどないだろうに。まったく習慣に囚われたアホだ。
ハウスは毛布を頭から被って、二度寝を決め込むことにした。……だが、寝られない。
騒音のせいだけでないことはわかっている。先程までの夢の余韻が下半身を圧迫していた。……くそう、ウィルソンめ。さっさと「おれのバスルーム」からどけ!
やがて、寝室のドアに控え目なノックがあり、「ハウス、朝飯を食うか? ぼくはもう食べるぞ」と、たずねる声がした。
ようやく生理的欲求にこたえたハウスがキッチンにのたのた入っていくと、ウィルソンは新聞を読みながら既に朝食を始めていた。
彼の清潔そうな耳朶とうなじを見つめながら、ハウスはマグに注いだコーヒーに口をつけた。実に清潔で食欲をそそる眺めだった。
「パンケーキ食べるかい?」
突如、夢想を破る声がし、ハウスは反射的に答えていた。
「きらいだ」
ウィルソンは「うう」とか「ふうん」とか言って、焼きたてのパンケーキが山盛りになっている皿をハウスの席から遠ざけた。
「……でも、それしかないなら食べる」
ウィルソンの向かいに腰をおろし、ハウスはパンケーキの皿を取り戻した。
おそらく彼用に置いてある取り皿を無視して、大皿のパンケーキにぶすりとフォークを刺すと、一口頬張った。
「すごく、うまいぞ、ウィルソン」
皮肉抜きの素直な賞賛の言葉がハウスの口から漏れる。
残った部分を取り皿に引っ張っていって、メイプルシロップをたっぷりかける。大きな一切れを頬張って、ハウスはうなずく。
「うまい」
ウィルソンは何故か怪訝そうな顔をして固まっている。
「『うまい』と言うだけじゃなくて、唇の端にキスしてやらなくちゃわからないか?」
ハウスの舌は砕いたマカダミアナッツがたっぷり入った焼きたてのパンケーキのおかげで滑らかになっている。
「……じゃあ、ぼくは出かけるから」
「まだお前の分のパンケーキが食いかけだろう?」
そわそわと立ち上がったウィルソンをハウスは引き留めた。
奇妙な沈黙があった。
おとなしく座り直したウィルソンは黙々とパンケーキを片付け、そそくさと出て行った。
玄関のドアが閉まるのと「今夜はミートローフを作ってくれる、って約束だったよな!」とハウスが怒鳴ったのが、ほぼ同時だった。
「ハウスのやつ……」
運転席でウィルソンは一人赤い顔をして毒づいていた。
「想定外のリアクションは困るんだ」
昨夜の夢のせいに違いない。
ああ、あの呪われた夢!
あの、熱くて、気持ちのいい……
『すごく、うまいぞ、ウィルソン』
脚の間にうずくまっていたハウスが顔を上げてニヤッと笑った。その濡れた感触が生々しく蘇りそうになって、ウィルソンは焦った。
ぐらり、と、ハンドルが揺れて反対車線に突っ込みそうになるのを慌てて建て直す。
「……ハウスのやつ! もう、今夜はどんな顔をして帰ればいいんだ?!」
了