City of Blinding Lights (2/3)

Apr 17, 2007 12:56

- Title: City of Blinding Lights
- Language: Japanese
- Rating: NC-17 (as a sequel)
- Pairing: Kaka/Shevchenko
- a disclaimer: Of course, it's all fiction.
- Summary: Sequel from part 1.



しばらくして、ドアの鍵が回る音。鮮やかなブルーのクレリック・シャツ、そして見慣れたダーク・ブロンドの髪がリカルドの目の前に現れた。
「シェヴァ!」
リカルドはスーツケースを廊下に残したまま、長い腕を広げて目の前の旧友に抱きついた。
ふたりはミラノで知り合ってから4年足らず、そして毎日顔を合わせなくなってからたった半年と少しだった。
しかし彼らが共に過ごした、長いとは言えない月日の強烈さは、その後の半年の不在を永遠にも感じさせるほどだった。
再会の短い時間を誰にも邪魔されずに過ごすために、アンドリイが用意したのはロンドンでも最上級の5ツ星ホテル、ドーチェスターのスイートルームだった。
彼らがフットボールの世界で築き上げた名声に、ふさわしくないとは誰も言えない豪奢な部屋の入り口で、ふたりはただ言葉もなく抱き合っていた。
リカルドが持ち込んだロンドンの冷たい空気が温まる頃、ふたりはやっと身体を離した。

何から話せばいいんだろう?
彼らはどちらもこの半年、友に誇れるような時間を過ごしてきたとは言えなかった。
電話やメールのやり取りでは強がることは簡単だったのに、ふたりきりで互いを目の前にした時、それがいかに脆いものだったかを痛感した。
「調子はどうだい」「大丈夫だ」「ゴールおめでとう」「頑張れよ」・・・そんな言葉は空回りするに決まっている。
リカルドはぎこちない動きで自分の後ろのスーツケースを引き込み、後ろ手にドアを閉めた。
ひと言めがどうしても出てこなかった。
毎日会わなくなっただけで、簡単で当たり前だったことがこんなに難しくなるなんて。

「あまり時間がないんだ」
アンドリイはドアの脇の壁にもたれた。
「明日の朝にはテルアビブに発たないといけない」
自分でホテルのブッキングの電話までするほど待ち遠しかった再会だというのに、そんなつまらない言葉しか出てこなかった。
そしてリカルドは、息が詰まるような空気に耐え切れず、子供じみた反応をしてしまった。
「さっさと抱いて帰れって言いたいの?」
リカルドはアンドリイを追い詰めるようにして壁に手をついた。
「そんな風には言ってない―――でもこのまま帰りはしないだろう?」
アンドリイは傷ついたように見える年少の友人を上目遣いに見た。まるでシミュレーションみたいだが仕方がない。
「それとも、どこかのグラウンドを借り切ったほうがよかったかい」
本当はそうだったかもしれない、とアンドリイは思う。ふたりが心を通じ合うのに、それ以上の手段なんてないのだろう。
アンドリイは少し寂しげに笑って、糊の利いたシャツのボタンを上から3つめまで外した。
リカルドの視線がその胸元に吸い寄せられるのを意識して、自分は馬鹿みたいだと思った。それでも、相手の温もりが欲しい時もあるものだ。
アンドリイはリカルドのストイックな部分がとても好きだけれど、今はそれが少しもどかしくていらいらする。
リカルドがミランに加入したばかりの頃、華やかな脚光と虚飾の世界がそれを壊してしまわぬように、アンドリイは心を配ったものだったけれど、いまや取り越し苦労だったことに苦笑するくらいだ。
「話すだけなら、電話でもできる」
正確に言えば、話すだけなら電話のほうがましだ。
「そうだね、シェヴァ」
リカルドは乾いた唇で答えた。

ふたりの距離が詰まり、リカルドはいつも隙の無いアンドリイの、危うげに開いた胸元に動悸を感じた。
メールや電話のたびに「元気だ」「大丈夫だ」と言い続ける彼は、実は新しい世界の荒波に傷ついているのだろうか?
リカルドはさらにふたりの間の距離を詰めて、壁を背にしたアンドリイにキスをした。
唇が触れる前に吸い込んだ空気に慣れ親しんだ、なつかしい匂いが混じっている。
キスが深くなり、リカルドはアンドリイが積極的に自分を求めていることを感じた。いつものどこか逡巡するような、諌めるようなニュアンスがないのだ。
嬉しいけれど、しかしどこか引っかかるものをリカルドが感じていると、アンドリイの手がリカルドのジャケットの襟に掛かり、唇を合わせたままそれを脱がそうとした。
ダーク・グレーのフラノ地のジャケットがリカルドの肩から滑り落ち、アンドリイは白いシャツの腕に触れた。
リカルドは一度唇を離し、アンドリイの身体を引き寄せるように抱きしめた。
薄いシャツの生地を通して互いの体温が伝わる。
「久しぶりだね」
リカルドはアンドリイの体のラインを確かめるかのように、背中と腕とに手を滑らせた。
「そう焦るなよ、部屋は広いんだから」
アンドリイはかすかに笑った。わずかなホーム・アドヴァンテージを利用して。

エントランスの狭い空間の壁際で抱き合っているふたりの背後には広大なリビング・ルームが、さらにその先のドアの向こうにはベッドルームが続いている。
リカルドはアンドリイの肩越しに、心地よい間接照明に照らされたリビング・ルームを覗き見た。
洒落たラブストーリーの舞台のような非日常的な光景に戸惑いを覚えながら、アンドリイが何のためにこれを用意したのか、ということを思えば、甘い疼きが身体を駆ける。アンドリイの言うとおり、無駄にしている時間などない!
「シェヴァ、僕はきみに会いに来たんだ」
リカルドはアンドリイの肩を抱くようにしてリビング・ルームに踏み込み、花柄のジャガード織のソファに倒れこんだ。
アンドリイの身体がクッションに沈んで、彼は真上から見下ろすリカルドの分厚い前髪が垂れ下がっているのを見上げた。
アンドリイは、さっきから自分がやっている「誘ってやっているという芝居」が馬鹿げていることに気づいていた。面倒な話などせずに抱き合いたいのは自分の方なのに。
そう、面倒なことには目を瞑るのが今夜の得策だ。
しかしどうしても目が行ってしまう。
リカルドのシャツの胸ポケットに、同色の白い糸で刺繍された、イタリックの”A.C. Milan” の文字に。
どうしてわざわざこんなところまで、公式のシャツなんか着てくるんだ。
「これを見て僕が後悔するとでも?」
アンドリイは手を伸ばして刺繍に触れた。
同じ服を着てヨーロッパ中を飛び回った日々のことを思い出さないわけがない。
リカルドはしまった、と心の中で舌打ちした。
あまりに急いでいて、クローゼットのいちばん手近なところにさがっていたシャツを確かめもせずに着てきてしまったのだ。
かつて僕らを繋いでいたものが、いまは僕らを遠ざけていた。
「シェヴァ、脱がせて」
アンドリイはすぐにシャツの襟に手を掛けた。
後悔なんかしていない、絶対に。
自分に言い聞かせるように、目の前のボタンを手早く外していった。
あらわになるリカルドの胸元の肌から漂う甘い匂いがさらにアンドリイを急かせる。
最後のひとつを外し終わり、アンドリイはそのままシャツをリカルドの身体から剥いた。
少し手荒に引っ張ったせいで、手首のところで袖が引っかかる。
アンドリイは構わずそのまま引っ張り、その勢いでカフスボタンが床に飛んだ。
カフスボタンまでご丁寧にミランの紋章入りだった。
「何するの、シェヴァだってもう立派なロンドナーじゃないか」
リカルドもアンドリイの仕立ての良いブルーのシャツを脱がせはじめた。
日に焼けても芯が白いアンドリイの肌の色に、鮮やかなブルーは良く似合う。
拘っていることはふたりとも同じだった。
着ているものを脱いで素肌になれば、ふたりは以前のままだろうか?
その疑念からくる緊張感を抱えたままで、ふたりは肌を触れ合わせた。
懐かしい温かさと、ひりひりするような熱さ。
彼らが同じ世界に生きる男同士であるがゆえに感じる、距離と焦燥感が生み出すその熱さは、ふたりをさらに狂おしくさせた。
「リッキー・・・リカルド、忘れさせてくれ、何もかも」
相手がリカルドである限り、それが忘れられないものであることを承知の上で、アンドリイはそうささやいた。
リカルドはアンドリイの絶望感を感じ取りながら、それに挑戦するようにアンドリイの唇を覆った。
リカルドは深く貪るような口づけに湿った唇をアンドリイの顎から首筋に滑らせた。
あまりにも簡単に、せつなげなため息をついてアンドリイの首が反らされる。
毎日近くにいるときには気づかなかった、そのかなしげな美しさにリカルドの心が痛んだ。
僕がそばにいれば、かなしい思いをさせることなんてなかったのに。馬鹿なシェヴァ!
しかしそれは鏡のようなもので、いまだに試合中ですら前線にアンドリイの姿を探してしまうリカルド自身もまた、惨めなものだと気づいていた。
「忘れなくてもいい、僕できみを満たしてあげる」
自分に言い聞かせるようでもあった。
リカルドの熱心な愛撫がアンドリイの胸を波打たせる。
その胸に唇をつけようとしたリカルドは、狭いアンティークのソファからはみ出して膝を着いてしまった。
リカルドはくすりと笑ってアンドリイを見上げる。
「ねえ、まだベッドまで歩ける?」
肘を突いて少し頭を起こしたアンドリイは呆れたようにリカルドを見た。
「毎日何キロ走ってると思うんだ?」
そういう問題じゃないよ、と呟きながら、リカルドは先に立ち上がり、アンドリイの手を取って引き上げた。
目の前の大きな窓の外には、メイフェアのゴージャスな夜景が広がっている。
アンドリイが選んだ街だからこそ、美しくて嫉ましかった。
リカルドはアンドリイの顎をとらえてもういちど唇を奪った。
この街からきみを奪い返せるものなら、と。

それからふたりはもつれ合うようにベッドルームに移動して、一分の隙もなく整えられたキングサイズのベッドに倒れこんだ。
アンドリイの背中に触れるシーツの冷たさはひどく非日常的で、上に乗ったリカルドの身体の熱さと相まって妙に官能的に感じられた。
リカルドは大きな身体を存分に伸ばしてアンドリイをベッドに押しつけ、中断された愛撫を再開した。
胸に唇を落とすと真っ白なシーツの上でアンドリイの上半身がうねり、スタンドの灯りに照らされたそのうつくしさに惹かれたリカルドは唇を脇腹から腰骨まで滑らせた。
かすれた吐息ともに、期待するように持ち上げられた腰から、リカルドは手早くピンストライプのパンツと下着とを取り去った。
「約束どおり、きみを満たしてあげる」
リカルドは、自分はセックスに関して独りよがりでも、コントロールを失いがちでもないと思っていたけれど、いまはゆっくりしていられそうになかった。
待ちわびた再会と、アンドリイの奇妙に積極的なアプローチがすでにリカルドを追い詰めていた。
リカルドは服をすべて脱ぐ前に、パンツのポケットからコンドームを取り出した。こんな準備までしてきた自分が浅ましくも感じたけれど、取り繕っても仕方がない。
軽薄な音をたてるセロファンの包装を、リカルドは歯で破いた。
それを横目で見上げたアンドリイは笑いながら言う。
「ミランいちのグッド・ボーイがね」
「僕をこんなにするのは、きみだけだ」
それなのに僕を置いていくなんて、という言葉は隠して、リカルドはほとんどピッチの上でしか見せることのない捕食者の笑みを浮かべた。
そして大きな手をアンドリイの腰に滑らせながら、その身体の向きを反対に変えさせた。
リカルドがいきなり後ろから口をつけて舌を這わせると、片手を額に当てたアンドリイの唇から震えるような喘ぎがもれる。
すかさずリカルドは自分自身をアンドリイの身体に射ち込んだ。
きつく反らされる背中にぴったりと身を寄せて、リカルドはアンドリイの耳に濡れた声でささやく。
「シェヴァ、会いたかったよ」
アンドリイの返答はほとんど言葉にならなかった。
リカルド、と相手を呼ぶともなく唇からこぼれる名前の響きは、ブラジルの家族のものとも、イタリアのチームメイトのものとも違う独特の発音で、それがひどくリカルドをせつなくさせた。
僕らは生まれた国を離れて、奇跡のように出会って、また離れてしまった。
アンドリイを後ろから羽交い絞めにするようにして、一度めの絶頂を追うリカルドのきつく閉じた目の裏側に、さっき見たロンドンの夜景がちらついた。
ああ、シェヴァ、僕はきみに会うためにここまで飛んで来たんだ。

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