- Title: Musician 1973
- Language: Japanese
- Rating: G (Pre Slash/微腐)
- Pairing: KS/TT (the alfee)
- a disclaimer: Of course, it's all fiction. すべて妄想の産物です
- Summary: Their young days, ”want to be a musician..."
今夜こそはどうしても真意を聞くのだと心に決めて、それでも言い出しにくいことを溜めたまま酒量だけが増えてゆく。
坂崎の周囲に空のビール瓶が何本も転がり、ちゃぶ台の上には飲み慣れぬ安いバーボンの瓶、コップが二つ。こんなに飲んでるのは俺だけだろうか。
隣に座る高見沢はさっき一緒に買ってきたレコードのジャケットとライナーの紙を見比べてくつろいでいる。部屋にはヴァニラ・ファッジのけだるいオルガンが流れていて、高見沢のうるさい前髪に非常に似合っている。
今夜も泊まっていくんだろう、そして昼過ぎに目覚めて、今日はお前学校行くのか?と問うのだ。一抹の後ろめたさを感じながら。後ろめたいのは自分が学校に行かないからではない。高見沢をこんなぐだぐだの生活に巻き込んだのが自分だからだった。
大丈夫だ、俺たちはデビュー目前のミュージシャンだ。大手のレコード会社と契約して来年にはデビューだ。
何度自分に言い聞かせてものどの小骨のような引っ掛かりが取れないのは、出会った日に高見沢が言ったひとことが忘れられないからだった。バンドはどうしてるの?と尋ねた坂崎に、高見沢が複雑な笑みとともに答えた言葉。
「音楽はもうやめたんだよ。教師にでもなろうかと思って・・・」
そう言いながらも髪の毛は長いままで、好きな音楽について嬉しそうに語る高見沢を、坂崎はその日のうちに部屋につれて帰ったものだ。大好きなくせに音楽をやめると言う高見沢を、ここで手放したらいけないという無意識の直感だったのかもしれない。あいつの魂を救ってやったのか誑かしたのかわからないが。
---Set me free why don't you babe, you just keep me hanging on・・・
高見沢の好きな曲だ。いいメロディだけど今の懸案事項に関しては嫌な歌詞だなと坂崎は思う。手放してやるものかという衝動的な思いが酒の勢いでメラっとわきあがり、なけなしの残った理性が、穏やかな友達としての自分が、そんな駄目な恋人みたいなのやめろといなす。
「ねえ高見沢」
古ぼけた畳の上に座りなおし、ちゃぶ台に身を乗り出す。
「もうこれを最後に二度と聞かない。お前本当に、俺たちとこんなことやってていいの?」
「こんなこと?」
高見沢のアーモンド形の目が大きく見開かれる。
「だってお前、最初会ったとき、『音楽はもうやめて教師になる』って言ってただろ?それが、俺たちのせいで、こんな」
そんなの忘れちまえ、と心の中でずっと唱えていたのは俺だが。
高見沢にとってみれば、そんな覚悟はとっくにできていた。
何よりもまた真剣に音楽をやりはじめて楽しかったし、坂崎と桜井の表情を見ていれば、覚悟なしに一緒にやれるはずなどは無かった。
「こんなことなんて、言うなよ」
高見沢は少し困ったような顔で言い、煙草に手を伸ばした。
高見沢がマッチを擦って煙草に火をつけ、煙を吐き出すまで坂崎はじっと待っていた。
「お前がそんな心配するならさ、話してやるよ」
急に高見沢の目がやんちゃな子供のように輝いて、悪戯を告白するように言い出した。
「俺ね、今思うと恥ずかしいんだけどさ、高校んときの文集に『社会の歯車の一つみたいな人生は嫌だ』って書いてたんだよ」
下を向いて笑いをこらえ、照れを持て余した高見沢は笑い崩れて坂崎のほうにしなだれかかった。
やっぱり俺はこいつの魂を救ってやったんだな。
急に気が大きくなって坂崎はひとのわるい笑みを浮かべた。
「よろこんで歯車の一個になろうとしてたくせにさ」
不安から開放された坂崎は高見沢の肩を力をこめて抱き寄せ、ふたりでバランスを崩して畳に倒れこんだ。
並んで畳の上にひっくりかえって、見えるのはシケた蛍光灯の輪っかと板が剥がれかけた天井だけだったけれど。
「参ったな。お前に会えて良かったって認めるよ。おまえらと歌うのは、今までの何よりも最高だよ」
高見沢の声が晴れやかで、坂崎は目を細めてニヤリとする。
「だろお?」
いくらでもうちの飯を食わせてやるし、酒も飲ませてやる。アコギのわかんないところがあれば教えてやるし、歌いたければいくらでも弾いてやるしコーラスもつけてやる。
だから一緒に音楽をやろう。
やるならば真剣に、やれるところまでやろう。
しばらくして起き上がった坂崎は、思ったより酔っているらしくへらへらしている高見沢の頭を膝の上に乗せて、髪を愛おしげに梳きながら思っていた。我ながら相当に気持ち悪いが、今夜は構うものか。
「あーわりいわりい遅れちゃった」
珍しく練習の待ち合わせに遅れてきた坂崎に桜井が不審げに眉をひそめる。髪はボサボサでむくんだ顔の顔色は最悪だ。二日酔いと額に書いてあるような顔なのに、やたら晴れ晴れとしてテンションが高い。
「どこでそんな飲み過ぎたんだよ。そこまでひどいのは珍しいよお前」
腑に落ちなさげな桜井の隣で、高見沢がふわふわと笑っている。
「さあ練習練習!」
先に立って口笛を吹きながら歩きだす坂崎の、ギターを担いだ背中を桜井はまだ不審げに追いながら、高見沢にたずねる。
「あいつどうしたの?なんか知ってる?」
高見沢は思わせぶりに答える。
「桜井、『卒業』って知ってるだろ?」
「結婚式場から花嫁を奪うやつだろ?」
「そうそう。あんな感じかな、坂崎」
桜井はますます混乱する。
「え?でも大恋愛してるって感じにはとても見えねえけど?」
「今度ゆっくり話すよ」
まだ狐につままれたような桜井も一緒になって、三人は歩き出した。
笑いながら、同じ方向に向かって。
終わり