- Title: ギターセッション
- Language: Japanese
- Rating: G (very light Slash/微腐)
- Pairing: KS/TT (the alfee)
- a disclaimer: Of course, it's all fiction. すべて妄想の産物です
- Summary: Inspired by their stage performance 「シュプレヒコールに耳を塞いで」
数年前に「セッション」という映画が話題になった。ジャズドラマー志望の青年と音大の鬼教官が、師弟愛とも苛めともつかない強烈な指導でもつれた絆を築いてゆく物語だ。映画のクライマックスではジャズならではのドラムのアドリブ演奏が繰り広げられるのだ。
ロックの世界でも、アドリブ演奏が大好きなドラマーやギタリストもいる。
俺たちアルフィーの場合は、3人のバランスのほうが大事なのでそんなに極端なことはしない。CD音源通りの演奏を心掛ける曲も多い。しかしたまにはライブならではのアドリブを入れて盛り上げる曲もあることはある。俺のエレキギターのソロ、坂崎が間奏に挟み込むアコギのワンフレーズとか。
なかでも、坂崎も俺もアコースティックを弾く「シュプレヒコールに耳を塞いで」は客席からの期待もあって、ついアドリブ演奏に気合を入れてしまう曲のひとつだ。
40年やってもいまだにアコースティックギターの厚みに慣れない俺は、夢中になると前かがみの変な姿勢になって坂崎にいつも笑われる。派手なギターに似合うように作られたステージ衣装との対比がまた面白いらしい。
「俺がスリーフィンガー教えてやってた時のまんまだよな。ホールからギターの中が覗けるんじゃないかってくらいになってた」
そう言ってリハーサルの時は容赦なく俺をからかう坂崎は、本番となればいつも真剣に俺のギターに向き合ってくれる。
あの曲をライブでやる時アドリブを挟むようになって、自然に俺の演奏に坂崎が応える形になった。
俺が仕掛けるフレーズに坂崎が応えるように弾いたり、コーラスみたいにハモって重ねてきたりする。
器用でコミュニケーション能力の高い坂崎が俺のインスピレーションに応えるという形は、アルフィーの王道なのだけれど、最近ではそれ以上のものを隣から感じるようになった。
「もっと俺を頼れ」「もっと俺に寄りかかれ」坂崎の指先が視線が楽しげに俺を煽ってくる。
曲のさなかなのをいいことに、坂崎は俺を誘っているのだ。
思えば昔からそうだった。音楽にかこつければ許されることを坂崎は知っている。
今日も俺は坂崎の指先に誘われるように曲の世界に没入していく。人形町の四畳半で、坂崎に身体を後ろから抱き込まれて指遣いを教わっていた時と同じように。
アコギの弦を無理矢理チョーキングして声を絞り出すようなソロを弾き終わり、それを受け止めるようなフレーズを返す坂崎をふっと見ると、これを自惚れと言うなら笑えばいい、愛おしそうな目で俺を見ていた。ステージの上から客席に見せるケレン味のある色気とは別種の、俺だけに向けられた視線にくらりとなり、いっそその誘惑に飛び込んでしまおうかと唐突に思う。
歌に戻る乾いた声のカウントが金縛りのような魔法を解き、二人の世界は終わってしまう。音楽ならば軽々と超えられる壁を、曲が終わるともう超えることができない。スタッフが運んできたギターにきびきびと持ち替え、次の曲に臨む坂崎を、俺は寂しいけれど少し安堵して眺めていた。
セッションの魅力は互いの距離感や熱が一回ごとに違うところだ。いつか俺たちは曲の終わりを超えることがあるのだろうか。
終わり