「そこでだ」エドは向き直り、酔った目を私に据えた。「君、説得してくれ。この頑固ものを」「説得？なんて？」
エドは天井を見上げ少し考えると「そうだな、面食いもほどほどにしろ、とか老人の味もいいもんだぞ、とか」
私はつい噴出して町長に言った。「君、面食いか。そう言えばうちの職員も言ってたが」エドもいい男だろ、と
水を向けるとエドも一緒に「そうだ。ちょっと俺より若くて金髪碧眼が現れるとすぐメロメロになっちまうとは」と
頷いた。町長は口を妙な形に曲げると酒を煽った。…エドよりちょっと若くて金髪碧眼って…あれ、私か？

…灯台さん、あんたの事だよ。久しぶりに更新しましたー
タイトルの「blunt」は「率直な」という意味ですが、刃物について「切れ味が鈍い」という意味もあるようです。

エドとは、私がこの町に流れてきて居酒屋を開業した頃に会った。よそ者扱いだった私の店で実演販売を
してくれたおかげで、町の人もこの店に馴染んだ。エドに対する恩を感じている。小さいながら港町には
ホテルも１軒あるがエドは私の部屋に泊まる。自分のベッドを渡し、私は店の椅子で寝る。一度「一緒に」と
誘われたが「町では品行方正」を貫いた。エドは寄る町々に馴染みの男女がいるから、今まではそれで
良かった。だが今回はどうやら灯台職員の存在がエドの心に火をつけたようだ。相変らず勘の鋭い人だ。

…町長独白。エドさんはバイですね。チャレンジ精神旺盛でなんでもいけるクチですね。
灯台さんは完全に三角関係に巻き込まれているのですが、気付いてません。

「さあ飲もう！」と大きな声を裏返して町長が酒壜を傾けた。「そう…それでエドは来季どこを回るんだい？」
しんみりした座を明るく戻そうとする。エドは短く刈ったシルバーの髪を撫上げ「引退しようと思う」と言った。
定年には時間があるが、旅暮らしに疲れたという。「そこでだ」エドの怜悧な青い目が輝いた。「ここに住む」
町長が口に含んだ酒を思いっきり吹いた。「…ってのはどうかな」エドが小さい声で続けたが、町長の反応は
微妙な感じだ。「彼はいつもこうやって私をじらすんだ」エドは私に言い、町長は小刻みに頭を横に振った。

…おっさん３人の飲み会つづき。灯台さんはまだエドと町長の関係性を把握していません。
実演販売名人のエドさんは、この不景気でもそれ相応の蓄えをもったので早期退職を考えている模様。

今日はエドの名調子に乗せられて金物を買うのに夢中で、客のテーブルには多くの食べ物が残っている。
集め盛り付け直せば男３人の飲み会には十分なつまみだ。彼はエドの実販武勇伝を感心して聞いている。
「…それで奴に言ってやった。２ガロン分溜まれば自動的に外れる、と」エドお得意のジョークは彼に受けた。
「その調子ならかなり稼いだんだな、家族は首を長くして待ってるぞ」グラスを傾けて笑顔で言う彼に、エドは
「家に帰ると妻はいなかった、５年前だ」とサラリと言った。彼は「私も同じだ」と呻いた。「船から降りたら、もう」

…町長語り。おっさん３人の飲み会で灯台さんとエドさんの会話をほほえましく聞いているはずが、
だんだんフォロー難しい次元に…みんな家族の話題は鬼門ですね。

「耐錆性抜群のチタン合金ナイフだ。グリップは水に強 い。本革ケースはヒップガードのベルトに掛ける」
釣り用ナイフの説明をするエドは私よりも９歳年上だと言う。実演販売の時と違い上着を脱いで寛ぐ姿は
ちょっとした紳士だ。「君は灯台職員だって？いい釣り道具を揃えてるだろう」「釣りは初心者でね、町長に
教わってる所だ」「ちゃんと親切に教えてるか？」私とエドは、テーブルを回って食べられる物を集めている
町長を振り返ると、彼は肩を竦めて「君は筋がいいよ」と私に答えた。エドは眉を上げて意味深に私を見た。

…灯台さん語り。灯台さんは町長の友達であるエドに興味を持っているようですね。そしてエドさんは、
町長の様子になにかを感じている模様。三角関係とまでは言えないんですけど、全然。だって灯台さんがノンケ。

濛々とした熱気は、購入した沢山の金物と共に町民が家路についてもまだ店内に残っている。町民が年に
一度の実演販売を楽しみにしている理由は、品質の良さもあるが、何よりエドの名調子だ。エドは全米を
セールスで１年かけて回り、この町には旅の最後に寄る。私がここで居酒屋を開いて以来の付き合いだ。
店の片付けは明日にして、慰労の酒を酌み交わす。いつも通り私とエドと、しかし何故か灯台職員もいる。
彼は、エドにとって置きの釣り用ナイフを見せてもらっていた。「すごいな」少年のように目を輝かせている。

…灯台さんと町長の話。金物実演販売の人は江戸兄いでした。灯台さんも、お開きなのに帰りません（笑）

船を降り、陸上勤務になって仕事は定時で終わる。灯台を出て港に面した居酒屋に行くのが最近の日課だ ( Read more... )

笑いが自然に込上げてくる。東欧の街角のカフェの片隅で、私達は小さい丸テーブルを挟んで向い合い
グラスに酒を酌み交わしている。お互いのスケジュールをやっと合わせ、短い時間だが会う事ができた。
あんたは以前会った時よりずっと痩せて、目尻に深くなった皺を刻んで微笑んでいる。話すのは私だ。
仕事の事やサッカーの話、友人の近況、とにかく話し続けている。あんたの柔らかい相槌や笑い声を
いつまでも聞きたい。…逢いたかった。視線が合って、私達は嬉しさにまた笑い、指先だけ触れ合った。

…ご無沙汰しておりました。４月の豆誕更新以来のご無沙汰でございます。
ＬＪから再開。リハビリ。またいつものパターンでございます。すんません。そしてリハビリといえばＲＰＳ！

「誕生日には戻れない」という相棒の電話を切り、台所を振り向くとパーティ用の食材が山積みだ。肉や魚を
冷凍庫へ戻し、下拵えが済んだものは冷蔵庫へ。つい溜息が出る。働く私の足元に犬達が纏わりつくのを
軽く追い払いながら「これが今生の別れと言うわけじゃない」と声に出して言った途端、涙が込み上げてきた。
突然降って沸いたような不安を打ち消すようにデタラメの歌を歌うと、犬達は一緒に跳ねた。大丈夫、彼は
無事戻ってくる。そうだな、今の歌を完成させてパーティで披露しよう。そして誕生日と無事帰還を祝おう。

…隠居生活、留守番米国人編。hangeさんのコメントで「待ってる側」はどうなんだろうと思って
ちょっと書いてみました。やっぱり誕生日パーティの支度はしていたんですね。二人きりじゃなくて

空港から「いつ帰れるかわからない」と電話するとアイダホの相棒は「こっちは一人で大丈夫。久しぶりの
ロンドンをゆっくり楽しんでおいで」と答えた。ぐらつく歯を馴染みの歯医者に診てもらう為に渡英したが
火山噴火で空港が閉鎖され「誕生日に帰る」という約束は守れなかった。市内へ戻るタクシーの中で思う。
君は一人でも大丈夫だが、私はもう一人では生きられない。依存しているわけじゃない。君が与えてくれる
様々な感情の大きさに圧倒されているんだ。一人で過ごす誕生日、改めて日々の幸せを噛み締めている。

…隠居の英国人は、歯医者里帰りしたら火山噴火で米国に戻れなくなりました。
米国人の言う「一人で大丈夫」ってのは馬やら犬やらの世話の話だと思うんだけど英国人は一人きりの誕生日でちょっとおセンチになってる感じですな